育て達人第018回 村松 恵子
日中の民間交流はまだ30年 相互理解への努力必要
経営学部 村松 恵子 教授(中国語)
本学の第2外国語で最も受講者が多いのは中国語。経営?経済学部では739人中391人が履修しており、2位フランス語の147人を大きく引き離しています。今回は経営学部の村松恵子教授に、中国語教育の最前線についてお話を伺いました。
――今年度の経営?経済学部1年生の履修率で見ると、①中国語53%②フランス語20%③ドイツ語14%④ハングル13%です。世相を反映しているということでしょうか。
「両国の現実を認識し合うことが出発点」と語る村松教授
私が名城大学に赴任した10数年前、最も履修者が多かったのはフランス語で、続いてドイツ語、中国語の順でした。もっと以前はドイツ語が人気ナンバーワンで、中国語が学べる大学はめずらしかったと思います。中国語履修者の増加には1972年の日中国交回復、78年の日中平和友好条約締結、80年代に入っての中国の改革開放政策が影響しているわけですが、90年代からはほぼ現在と同様の履修傾向で推移しています。漢字への親しみもあると思いますが、学生たちは中学時代からずっと英語を勉強してきているので、同じ印欧諸語であるドイツ語、フランス語はもういいという意識もあるのでしょう。
――学生たちは中国語の授業だけでなく、海外フィールド調査などでも中国を訪れる機会があります。中国に対してどんな思いを持っているのでしょう。
残念ですが、中国語を学んだからと言って、中国に興味を持った、中国に行ってみたい、中国が大好きになったという学生は少ないのが現実です。経営学部では「国際フィールドワーク」という科目を設けて、中国とフランスと交互に1年ごとの現地研修を実施しています。中国については約10日間の日程で、本学の協定校である北京第二外国語学院と上海同済大学で語学演習や企業訪問などを行い、中国の大学生とも交流しますが、参加者は増加していないのが実態です。ご承知のように、中国は非常に政治性の高い国です。今年は北京オリンピックもありましたが、チベット問題もありましたし、さらに食の安全を揺るがす事件もありました。どうしても学生たちの好感度は下がります。
――初めて中国を訪れたのはいつごろですか。
日中平和友好条約が締結された直後の大学生時代です。もう30年近くも前のことになりますが、当時の中国の人たちは人民服、人民帽姿で、外国人なんてほとんど見たことがないという時代でした。それ以来、中国へは20回くらい訪れていますが、その間に中国は大きな変貌を遂げました。都会ではビルが林立し、田舎でも自然を壊してマンションが続々と建設されています。しかし、外観がどのように変わろうとも、中国人の精神性は簡単に変わるものではありません。
――今年の第139回芥川賞には中国人女性の楊逸(ヤンイー)さんの「時が滲(にじ)む朝」が選ばれました。中国人が芥川賞を受賞するのは初めてで、受賞作は、理想に燃える中国の大学生が民主化運動に加わり、天安門事件で挫折するまでと、その後の人生の哀歓を、漢詩や英語を交えた日本語の文章で描いた青春小説です。中国と日本の若者たちの距離がどんどん近くなっているようにも見えます。
確かに、中国は日本にとって身近な存在になりつつあります。しかし、私にはその距離はまだまだ遠く感じられますし、中国人の多くはまだ積極的に日本人の精神性を理解しようとしていないと思われます。それは、民間レベルでの直接交流の歴史がまだまだ浅いからだと思います。日本人の中国に対する理解についても、遣隋使や遣唐使が中国に渡り、日本に役立つ書物などを持ち帰った歴史はありますが、それは一部のインテリたちの交流にしかすぎません。日中間では、お互いに民間レベルの本格的な直接交流がないまま戦争を経て中華人民共和国が誕生し、国交が途絶えてしまいました。中国と日本が対等な関係でお互いに向き合うようになったのは日中平和条約が締結されてからで、その歴史はまで30年しか経っていないのです。
――大学院もそうですが経営学部では多くの中国人留学生が学んでいますし、中国の大学に留学する日本人学生もいます。今後、交流は一段と進むと思われますが、本学のビジョンの一つでもある「国際化」に、どう生かしたらよいでしょう。
経営、経済、法学部で中国人留学生が増えており、大学院の経営学研究科では9割にも達しています。本学と交換留学制度を持っている北京第二外国語学院には毎年1、2名が留学しており、来年は2名行きます。国際化も含め、広く社会に開かれた総合大学を目指す本学のビジョンに生かすには、まず、お互いに現実を知って、認識し合うことが出発点です。そして、さらに言えば、相手国の現実を認識することによって、それを鏡として自国を内省する。このことこそ「国際化」の土台なのです。日本人の学生は、日本の歴史、文化、精神性を知らなさ過る。そして、中国人の学生は、中国を世界の中の一つの国として客観的に見る目を養う。このことが非常に大切だと思うのです。
――中国語を教えている立場から、「名城育ちの達人」への期待をお聞かせ下さい。
名城大の学生はまじめで、卒業生たちの多くが、日本のモノづくりを支える地元企業に就職しています。日本と中国はこれからも切っても切れない関係にあり、この地区の企業の成長も中国との関係なしではありえません。学生の皆さんには、しっかりと現実を見つめながら、もっともっと中国への関心を深めてほしいと思います。そして、名城大学で学んでいる中国人留学生たちには、日本人のものの考え方をもっと学んでほしいと思います。
村松 恵子(むらまつ?けいこ)
名古屋市出身。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了。文学博士。名城大学商学部講師、助教授、教授を経て現職。専門は中国語学、日中対照言語学。日本中国語学会などに所属。