育て達人第021回 安藤 義則

材料機能工学科の人気高まる   ノーベル賞に近い研究室を予感?

理工学部 安藤 義則 教授(結晶物理学)

 名古屋出身の研究者が2人も選ばれた今年のノーベル賞。本学でもカーボンナノチューブを発見した飯島澄男教授、青色発光ダイオード(LED)の発光に世界で初めて成功した赤﨑勇教授の受賞への期待が高まりましたが、残念ながら朗報は来年以降に持ち越されました。理工学部の安藤義則教授によると、今年の同学部1年生たちの学科選びでは、飯島、赤﨑教授の研究実績への関心の高さを反映してか、関連学科である材料機能工学科を選ぶ学生たちが増えているそうです。

――飯島先生が1991年にカーボンナノチューブを発見したきっかけは、安藤先生たちが実験で使用した電極がヒントになったと言われています。

「とことん自分からやるという気持ちを大切にしてほしい」と語る安藤教授

「とことん自分からやるという気持ちを大切にしてほしい」と語る安藤教授

 飯島先生が名城大学の教授に着任されたのは1998年ですが、実は1991年4月から、非常勤講師として来てもらっていました。理工学部Ⅱ部学生のための物理実験が日曜日にあり、月1回、指導のため足を運ばれていたからです。1991年初頭から、私たちの研究室ではフラーレンの大量作製に取り組んでいました。フラーレンは1985年に世界で初めて発見された、炭素原子60個がサッカーボールと同じ球形に結合した巨大分子です。それはカーボンナノチューブと構造が似ており、これまでに全くなかった物理的性質、化学的安定性を持っています。飯島先生は、私たちがフラーレン作製のために実験で使った後、机の上に放り出されてあった電極に大変興味を示され、「これを持っていって電子顕微鏡で調べてもいいですか」と持ち帰りました。「これはノーベル賞級かも知れない」と、興奮気味の飯島先生が、カーボンナノチューブの発見をイギリスの科学誌「ネーチャー」に発表されたのはその年(1991年)の秋でした。

――飯島先生の研究を身近に見てこられただけに、今年も安藤先生たちの飯島先生のノーベル賞受賞への期待はひとしおだったのではないでしょうか。

 「フラーレンの発見」に対しては、発見から11年後の1996年、米英3人の研究者にノーベル化学賞が贈られました。カーボンナノチューブの発見で、応用の可能性が高まった背景もあります。飯島先生のカーボンナノチューブは発見から17年を経ており、我々研究者たちの間では「次はいよいよ」という期待が高まっています。

――全国で大学の研究成果をベースにしたベンチャー企業の設立が相次いでいます。経済産業省のまとめでは、2007年度末時点で全国で1773社。ベンチャー企業の設立で、大学の特色を受験生にアピールする狙いもあると言われていますが、安藤先生の研究室でも2005年、「株式会社名城ナノカーボン」を設立、カーボンナノチューブの製造装置の開発に乗り出していますね。

 名城大学発のベンチャー企業は、他にLED関連の「エルシード株式会社」「創光科学株式会社」など現在5社あります。私も取締役に名を連ねる「株式会社名城ナノカーボン」が目指しているのは、カーボンナノチューブの大量供給につながる製造装置の開発とカーボンナノチューブそのものの製造販売です。鋼鉄の数十倍の強さを持ち、様々な分野への応用が期待されているカーボンナノチューブは、まだ大量生産できるまでに至っていません。我々はチューブの壁が多層ではない単層カーボンナノチューブでの大量製造技術の開発を目指しています。企業規模としては、まだ瀬戸市にある窯業原料の工場の一角を借りて細々とやっている状態で、軌道に乗るにはまだ時間がかかりそうです。

――今年は日本から4人のノーベル賞受賞者が誕生し、うち2人が名古屋出身でした。理工学部の学生たちにとっても、ノーベル賞への関心が高まったのではないでしょうか。

 理工学部では2004年度から、2年に進級時に学科を選ぶ「系入試」を実施しています。今年度から系入試枠は3割(約300人)だけとなりましたが、系入試枠で入学してきた1年生たちの進級希望調査で、最も希望が多かったのが材料機能工学科でした。特に、成績がいい学生たちの進級希望が目立っています。学生たちは情報に敏感で、ノーベル賞に近いといわれるカーボンナノチューブ、LEDの研究が、いずれも材料機能工学科の領域であることを意識しているためだと思います。大手予備校の受験生データでも、今年は材料機能工学科を含めた化学系学科の人気が高いという傾向が出ているようです。

――飯島先生、赤﨑先生の研究に続こうという学生たちがどんどん現れてほしいですね。学生たちが、学生時代に学んだことを生かし、その道のプロとも言える「達人」を目指すためには、どんな心構えで学生生活を送るべきでしょうか。

 何でも探究心を持ってほしいと思います。とことん自分でやるという気持ちを大切にしてほしい。名城大の学生たちが全般にまじめだという印象は多くの教員が持っていますが、注文をつけるとすれば、おとなしすぎるという点です。「やればできるのに」と、見ていて歯がゆくなる学生も目立ちます。勉強も、自分から意欲を持ってやらないと学ぶ喜びは味わえません。

安藤 義則(あんどう?よしのり)

岐阜県出身。名古屋大学工学部卒、同大大学院工学研究科応用物理学専攻博士課程修了。工学博士。1974年、名城大学理工学部講師。助教授を経て現職。専門は結晶物理学、固体物性学。66歳。

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