育て達人第038回 昇 秀樹
行政理論と現実を学ぶ学生を応援したい OB市議、院生、学部生で合同ゼミも
都市情報学部 昇 秀樹 教授(地方自治論)
地方公務員を目指す学生も多い都市情報学部。昇秀樹教授は自治省(現在は総務省)で20年、地方行政や財政、まちづくり計画の実務にあたった体験を生かし、学生たちの後押しをしようと理論と現実が結びついた授業を心がけています
――地方自治や行政の動きに絡んで、昇先生の見解が新聞などでよく紹介されています。読売新聞の記事データベースで検索したところ、先生が名城大学に赴任された1995年以降、関連記事97本がヒットしました。
「都市情報学部の学生はよく勉強しています」と語る昇教授
新聞に出た回数がそんなに多いとは思っていませんでした。大学を出て自治省に就職し、本省勤務のほかに滋賀県、三重県などに出向し、企画、財政畑での仕事をずっとしていました。公務員の世界を知っていて、さらにそれを学問分野として研究している人間は少ないので、コメントを求める側からすればちょうどよいのでしょう。
――1996年4月17 日付の紙面では、三重県が全国の自治体では初の試みとして、行政成果を数値化し、予算査定に活用することに対しコメントとしています。「利益追求の民間と比べ、公益目的の行政は数字化が困難だ。しかし、それを言い訳にしてきたことを思えば、三重県の試みは画期的であり評価できる。問題は成果指標が独り歩きして、弱者や少数のための事務事業が切られてしまうことはないかだ」 とありました。
自治省を辞めて名城大学で研究生活を始めて2年目の時です。スタンスは現在と変わっていませんね。振り返ってみると、大学人となった最初のころは、このコメントのように、どうしても公務員に近い目線で見てしまう傾向があったような気がします。大学での研究生活が長くなるにつれてコメントもかなり辛口になりました。
――自治省を就職先に選んだのはどうしてですか。
大学のゼミで、行政法が専門の杉村敏正先生の指導を受けたのがきっかけです。杉村先生は国民主権、平和、人権尊重を基調とする法理論体系に取り組み、1978年の京都府知事選挙では、28年に及んだ蜷川虎三知事の後継として立候補し、自民党推薦候補の林田悠紀夫氏に敗れた方です。私が学部を卒業した当時は、オイルショックもあり就職が厳しい時代でしたので、学んだことを生かすのなら地方自治関係の公務員だと思いました。
――都市情報学部ではどんな授業を担当しているのですか。
都市と行政、都市と自治について、理論と現実を結びつける習慣を身つけさせようという狙いで講義をしています。地方公務員志望の学生が多いこともあって、行政の動きに興味を持っている学生が目立ちます。最初あまり関心がなかった学生でも、講義を受けている間にやる気が高まってくるようです。名古屋市長選挙で「なぜ河村さんが勝ったのか」についてレポートを書かせると、面白いことを書いてきた学生も結構いました。授業の最後の1分間には「マイニュート(Minute)ペーパー」というレポートで、授業の感想や意見を書かせています。授業の理解度を知るためで、面白い内容のレポートは次回の授業の最初に紹介しています。
――学生たちの授業に取り組む姿勢はどうですか。
良い意味で昔の大学生っぽい感じがします。私は法学部を出て、法律の基本科目と応用編の科目を学びました。ところが都市情報学部の学生たちは、行財政、経済?経営、開発?環境、都市計画、情報処理の5つ系統の基本科目が必修で、このほかに関連科目を選択として学んでいます。5タイプの異なるロジックの学問をしっかり学ぶわけですから、天白キャンパスの学生たちに比べたらかなり大変だと思います。「昔っぽい」という意味は、昔の学生の方が今の学生よりはるかに勉強したと言われるからです。都市情報学部の学生たちの就職が好調なのも、そうしたまじめさが評価されているのだと思います。
――学生たちへのアドバイスをお願いします。
地元の可児市で、市議をしている名城大OBの方がいる関係で、学部、大学院での通常のゼミの月1回分を市議さんたちと合同で開いています。年齢的にも幅の広い20人近い参加者になり、「可児市議会昇ゼミ」と呼ばれています。議員さんたちにとっても学生、院生たちにとっても、様々な立場からの意見が交換できるわけで、充実した内容になっています。学生ばかりでの学び合いでは得られない刺激があります。大学は自由なところで、学ぼうと思えばいろんな機会があります。遊びも大切です。いろんな体験に挑戦すべきです。
昇 秀樹(のぼる?ひでき)
兵庫県出身。京都大学法学部卒。自治省に入省し滋賀県、自治省財政局、三重県企画課長、自治大学校部長教授などを経て1995年4月から名城大学都市情報学部教授。専門は地方自治論、行政学。主要著書に「まちづくりと地方自治」「21世紀の地域づくり」など。57歳。