育て達人第048回 大野 栄治
現場体験からの学びを大切に 目標達成へ最後まで粘りを
都市情報学部長 大野 栄治 教授(環境経済評価論)
都市情報学部長の大野栄治教授は9、10月、岐阜新聞に8回にわたり、「公共事業の無駄をどう考えたらよいのか」などについてコラムを執筆しました。民主党政権の誕生で大型公共事業の見直しが論議を呼んでいることもあり、お茶の間でも話題にできるよう、わかりやすさを狙ったコラムには高い関心が寄せられたようです。
――岐阜新聞のコラム欄「素描」では無駄な公共事業の見分け方などについて解説されていました。書き終えての感想をお聞かせ下さい。
「何か熱中するものを見つけてほしい」と語る大野学部長
これまでの自分の研究生活を振り返りながら書きました。1回あたり約600字分です。これまでに書いてきた文章は専門分野の研究者や学生向けが大半で、一般の人向けに書いた経験はあまりありませんでした。書き上げた原稿を家族にチェックしてもらいましたが、小学6年生の娘に「ちんぷんかんぷん」と言われ全面的に書き直したものもありました。わかりやすく書くというのがいかに難しいことか、思い知らされました。
――税金の無駄遣いについてはどのように考えたらよいのでしょう。
連載8回目に当たる最終回でも書きましたが、費用対効果を検討するには費用と効果の両方を同じ物差しで測らなければなりません。そうしたプロセスを経ないでいきなり「無駄だからやめてしまえ」というのはかなり乱暴だと思います。無駄遣いという批判の中には効果に気付いていない場合もあるのです。例えばバリアフリー施設の効果について、健康な人には恩恵はないと思われがちですが、実際には利用しなくても多くの恩恵を受けているのです。
――長良川河口堰とか飛騨トンネルなどの施設の現場体験の授業も重視していますね。
大規模プロジェクトの現場にゼミの学生を連れて行って、現場の担当者からその施設の必要性、利用状況、運用上の問題点などについて説明してもらうような学外実習を設けています。これは「プロジェクト評価」というゼミ科目の一環です。私は学生時代の授業で、ヘルメットをかぶり、長靴を履き、何度か工事現場に連れて行かれました。現場から学ぶことはとても多いのです。都市情報学部の学生(特に1年生)にも、社会の現場を体験させ、学ぶ目的意識を高め、そこから大学での学びにつながるような教育プログラムを作れないかと検討中です。
――最近の学生たちの学ぶ姿勢で気になる点はありますか。
すぐに諦めてしまう学生が増えてきたように思います。私のゼミでは、まず自分で調べることから始めます。例えば「交通事故の発生率の大きさは何によって説明されるか」というようなテーマを与え、車の普及率や高齢ドライバーの割合など、学生たちが各自で考えた要因のデータを調べさせ、交通事故の発生率との相関関係などについて分析させます。そして、ゼミで報告会を開くのですが、あっさり「データが見つかりませんでした」と報告する学生もいるのです。事前に「データが見つかりませんがどうしたらいいですか」と相談するなど、目標達成に向かって最後の最後まで粘ってほしいと思います。
――来年は名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催されます。可児キャンパスでは読売新聞社との共催によるCOP10パートナーシップ事業「エコキャンパスプログラム」も展開されるなど学生の皆さんの関心も高まっているのでは。
環境と開発の調和について、私の授業(土地利用計画論)などで学生に問いかけています。「環境があってこその人間生活だ」という学生もいますし、「環境破壊には反対だが不便な生活はいやだ」という学生もいます。全く無関心という学生はほとんどいないようです。可児キャンパスでは小池ゼミの学生らの手で里山づくりも進められています。今後、地域の住民の皆さんも参加できるイベントも盛り込みながらキャンパス全体で盛り上げていければと思っています。
―― 学生たちへのメッセージをお願いします。
何か熱中するものを見つけてほしいと思います。私は中学生時代からずっと水泳をやっていて大学でも水泳部でした。残念ながら大学2年の時に病気をして大した成績は残せませんでしたが、一つのことに集中できる力がつけばいろんな可能性が見えてきます。大学祭実行委員会とか新入生歓迎委員会などのメンバーとして頑張っている学生たちを見ていると、時間を有効に使い、勉強も頑張っています。時間をうまくやりくりするコツを身に付け、充実した学生生活を送ってほしいと思います。
大野 栄治(おおの?えいじ)
岐阜県羽島市出身。岐阜大学工学部土木工学科卒、同大学大学院工学研究科修士課程修了。京都大学博士(工学)。岐阜大学工学部助手、筑波大学社会工学系講師、名城大学都市情報学部助教授を経て教授。2009年4月から学部長。所属学会は土木学会、日本都市計画学会、環境科学会など。49歳。