育て達人第109回 早藤 英俊
全日本学生フォーミュラ大会で悲願の入賞 志達成へ“一所懸命”打ち込もう
理工学部 早藤 英俊 講師(流体工学)
学生たちが設計、製作した自慢のマシンを競う第10回全日本学生フォーミュラ大会(自動車技術会主催)が9月、静岡県で開催され、名城大学チームが総合6位で初の入賞を果たしました。第1回大会から、教員指導者(FA)として理工学部交通機械工学科の学生たちを中心としチームを指導してきた同学科の早藤英俊講師に聞きました。
――全国から75チームが参加した全日本学生フォーミュラ大会で名城大学チームは総合6位。10回目の挑戦で初の入賞おめでとうございます。学生たちの喜びもひとしおでは。
「学生たちはマシンの原点を見据えよく頑張りました」と語る早藤講師
それはもう大変な喜びようです。悲願達成ですから。2003年の第1回大会で出場13チーム中8位だった以外はいつも35位~38位、昨年の第9回大会は41位でした。フォーミュラカー車体のゼッケン番号は、前年順位がベースとなりますが、名城より上位3チームがエントリーせず「38」に繰り上がりました。総合6位入賞、省エネ賞2位、飛躍的に順位を上げたジャンプアップ賞3位にも輝き、全種目完走賞である全日本自動車工業会長賞もいただきました。完走は28チームですが、実は名城が完走したのは第1回以来でした。
――全日本学生フォーミュラ大会が始まった背景を教えてください。
自動車技術者の養成です。アメリカでは日本より約20年早く始まりました。優秀な技術者の航空機産業などへの流出、日本車の攻勢もあり自動車王国の土台が大きく揺らいでいました。10年後、20年後を見据えた自動車技術者の確保が大きな課題になり、不況下でしたが、かなりのお金を投じて、1981年から学生の技術向上を狙った大会が始まりました。大会はヨーロッパにも広がり、日本でも2001年から本格的な準備が始まり、2003年、アメリカで適用されているルールで第1回大会が開かれました。日本でのスタートが遅れたのは、お金、人手、安全の確保など、運営するには大きな負担のかかる事業だったからです。
――総合順位が決まるまでのルールを教えてください。
大会は実践的な体験で、学生たちのモノづくりの力を高め、自動車技術や次代産業を担う人材を育てるのが狙いです。レースタイムで勝ち負けの順位が決まるわけではありません。学生たちはフォーミュラカーを年間に1000台開発、製作するための仮想会社を設定し、車両の開発、組み立て、資金調達、広報活動などの仕事を全て体験します。部品提供を協力メーカーに依頼する場合も、メーカーと互いに了解できるレベルに達するまでのしっかりした技術的な説明が必要です。新入生を除く18人のメンバー全員がこうした企業回りを経験しました。9月3日から7日までの第10回大会では、まず、2日目にブレーキや車体の安全性など技術面を検査する車検(安全確認)と、コストやデザイン(設計)等の審査が行われました。3日目以降は実際に車を走らせ、75mの加速、8の字コースでの旋回性能、1周約900mのコースでの総合的走行性能と、これを20周回る耐久競技を行いました。
――学生チーム「Meijo Racing Team」のホームページを開くと、第10回大会に挑んだマシン「MR-10」の車両コンセプトを「原点回帰」としていました。
「走る」「曲がる」「止まる」という3つが自動車の原点です。より速く走れる、走りっ放しでなく必ず止まる、ドライバーの意思で思い通りに曲がれる。昨年は41位、それ以前もずっと低迷していたのは完走できなかったからです。原点である「走る」というところで走り切れなかった。これまで、静的検査と呼ばれる部門では、例えばコスト部門では過去連続2位でしたし1位になったこともあります。プレゼンテーション、デザイン部門でも上位でした。ただ動的審査と呼ばれる走りの部門が弱かった。走行中に排気管が外れて遠くに飛んでいくとか、突然エンジンが停止し再始動せずとか。「名城さんは最後まで走りさえすればそこそこ点数はつくのに」と言われ続けてきました。今回は学生達が自ら原点を見つめ直し、基礎的な部分がきっちり作り込まれたことが完走につながったと思います。
――学生たちはもう、来年の第11回大会を目指して始動しているのですか。
1年がかりでの大会出場ですから、もう動き出しています。学生たちは「自動車技術研究会」というサークルで活動していますが、教師のいないゼミのようなもので、全てを学生が運営します。車をどういうコンセプトでまとめるか、それに基づき大きさ、構造が決まっていきます。活動は授業が終わって午後4時半ごろから夜遅くまで続き、2月ころから製作が本格化していく。正月もほとんど休まず、9月の大会を控えたお盆のころは佳境に入ります。本来が卒業研究レベルの内容ですが、授業時間数に換算したらものすごい量です。
――学生たちに伝えたいメッセージは何ですか。
自動車技術研究会の学生たちには「一所懸命」という言葉です。「一生懸命」はもともと「一所懸命」から始まりました。一つの場で、自分が志したものに向かって全力で進んでほしい。一般の学生の皆さんには「好きこそ物の上手なれ」です。興味を持ったことには努力を惜しまず取り組み、評論家ぶらず、実践者であってほしいと思います。
入賞を勝ち取ったマシン「MR-10」
早藤 英俊(はやふじ?ひでとし)
滋賀県出身。名城大学理工学部交通機械学科卒。助手を経て現職。実技、実習を伴う科目を中心に担当し、著書に「自動車工学」(共著)、論文に「思考しながら遂行する実感教育の一工夫」(同)など。公益社団法人自動車技術会中部支部の社会貢献企画委員として、子供たちの理科離れ対策活動にも取り組む。1954年生まれ。