育て達人第175回 嶋口 裕基
ブルーナーに傾倒 「熱意あふれる教職課程」の一翼を担う
教職センター 嶋口 裕基准教授(教育思想)
8月24日に天白キャンパスで「第10回卒業生教員交流会」が開かれました。本学を卒業し各地の公私立学校で教える先生たち約100人が参加しました。基調講演の講師を務めた教職センターの嶋口裕基准教授は、アメリカの心理学者のジェローム?ブルーナー(1915~2016年)の説を縦軸、文部科学省の新学習指導要領を横軸に「深い学び」について語りました。「これからの日本は先生方の『ワクワク』にかかっている」との指摘に、先生たちは心を新たにしていました。
基調講演の意図から聞かせてください。
好きな言葉を色紙に書いた嶋口裕基准教授
「深い学び」について詳しく説明することが主な意図です。「主体的な学び」や「対話的な学び」はイメージしやすいといわれていますが、「深い学び」については何のことか分からないとされているようです。そこで、「深い学び」について、私の専門であるブルーナーの発見学習をもとに伝えました。
先生たちはレジュメに熱心にメモをしていました。
卒業生教員交流会で基調講演する嶋口准教授
もう一つ意図がありまして、これからの学校教育に向けて、「ワクワク」することを伝えたかったということです。新学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」として教育による「よりよい社会創り」を掲げています。この理念は壮大で学校教育の使命を強く感じさせるものですが、しかし一方で、現場も大きな変革が必要になると思います。そこで必要なのは「ワクワク」なのではないかと。これは内田良さん(名古屋大学准教授)と苫野一徳さん(熊本大学准教授)の対談本で言われていたことですが、先生方がワクワクすると、子どもたちもワクワクして学校教育がより良くなっていきます。内田さんと苫野さんの主張通り、ワクワクすることがこれからの学校教育に必要で、僭越(せんえつ)ですが、現場の先生方がワクワクできるような現場になってほしい、という思いも込めました。
ブルーナーについてどんな研究をしてきましたか。
実は私の研究テーマは「発見学習」ではありません。ブルーナーが自ら提唱する「文化心理学」が教育にとってどのような意味があるのかを研究してきました。これまでの研究では「ナラティブ(narrative)」や「フォークペダゴジー(folk pedagogy)」という概念を検討してきました。まだまだ直接論じることができていませんが、「なぜ教育が必要なのだろう」「学ぶとどうなるのだろう」「なぜ教科を教えるのだろう」という問いに答えようと、研究を進めていきたいと思っています。
教職課程ではどのようなことを教えていますか。
私が担当しているのは教育原論と教育課程論です。教育原論は主に教育とは何か、よい教育とはどのような教育か、について扱っています。教育原論の前半部分では、教育の原理や思想について扱っています。後半部分は教育の歴史です。教育課程論は主に学習指導要領の説明になります。具体的には学校の教育計画、内容はどのようなもので、どのような背景から成り立っているのか、について扱っています。
学生にはどんな先生になってほしいですか。
自分でしっかりと物事を考え、自ら進んで成長していく先生になってほしいです。先生になった後も幸せになれる、そんな先生になってほしいと願っているからです。
卒業生教員交流会で教職センター長の曽山和彦教授から「『専門性』という太い柱をもつ名城育ちの優れた教員を数多く育てる」という大目標が語られました。教職課程についてどうぞ。
本学の教職課程の一番の特色は教職センターの存在です。教職課程運営の中心となるセンターは他大学にもありますが、専任教員だけで構成されているのは比較的珍しい方だと思います。センター業務に専念できますので、センター専任教員も教職課程の運営と教員採用試験への支援に専念しやすい環境にあると私は感じています。実際、センターの先生方がもっている教職課程履修者に対する熱意は強いです。学生もプラスαで履修している子たちですから、熱意が感じられます。「熱意あふれる教職課程」というのが、本学教職課程の特徴と私は思っています。
名城大学の学生にメッセージをください。
「今しか出来ないことを一生懸命やりなさい」です。この言葉は私のものではなく、私の好きなドラマ『女王の教室』で出てくるせりふです。今やっていることについて将来にどんな意味があるのだろうと考えるのも悪いことではないですが、今しか出来ないことを、とにかく一生懸命行うということも、とても大切です。そのときどうつながるか分からなくても、その成果は不思議と将来に必ずつながっていきます。ちなみに、先ほどの言葉の後には「今しか出来ないことは一杯あるんです」と続きます。だからこそ、学生の「今しか出来ないこと」である勉強を全力でやってほしいと思っています。もちろん、遊ぶことも大事です。
受験生にもメッセージをください。
今、学校教育は変わり目にあります。その変化の中で教師に求められているのは「専門性」です。ここでの専門性は教科の専門性、つまり学問的知識をどれくらい知っているのかということと、授業をうまくつくったり生徒をうまく支援したりする教師としての専門性です。本学で教職課程を学ぶ場合、教科の専門性は学部の科目で、教師の専門性は教職課程の科目で学びます。本学は両方とも高められる環境にあります。学部での専門的な学びも充実しているからです。将来中学校?高校の教員を考えているのであれば、ぜひ本学で教職課程を学んでもらえれば、と思います。また、本学では国語以外の主要教科の免許状に加え、商業や工業、農業の免許状も取得できます。工業の免許状は、愛知県では取得できる大学が減ってきています。商業や工業、農業の教員になりたい人もぜひ本学で学んでもらいたいです。
好きな言葉を色紙に書いてください。
「三人行えば必ず我が師有り」です。論語の中の言葉で、三人で一緒に行動すれば、必ず自分の手本となる人がいるものである、という意味です。
趣味や気分転換法を聞かせてください。
映画を見ることと音楽を聴くことです。映画は文学的なものが好きです。成瀬巳喜男監督の『めし』や、愛知県豊川市出身の園子温監督の『ちゃんと伝える』、最近のものですと『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』がお気に入りです。「生きる」ことについて考えさせられる映画だからです。趣味と兼ねていますが、気分転換は美しくてメロディアスな音楽を聴くことです。具体的にいうと研究者に比較的愛好者が多いとされているメタルです。「X JAPAN」的な音楽です。スピッツや嵐のような音楽も聴きます。
最後に、PRすることがあればどうぞ。
本年度から剣道部長を務めています。私も小学校から高校まで剣道をしていました。今、部員は全国大会を目指して頑張っています。応援をよろしくお願いします。
嶋口 裕基(しまぐち?ひろき)
石川県出身。早稲田大学教育学部教育学科卒、同大大学院教育学研究科修士課程、同博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。早稲田大学教育総合科学学術院助手、名古屋女子大学文学部講師等を経て2016年より現職。専門は教育思想?教育哲学。著書に『ブルーナーの「文化心理学」と教育論 「デューイとブルーナー」再考』など。