大学概要【2021年度実施分】実践的な取り組みをするゲストスピーカーの講義?特論への招聘
理工学部
講義?特論の中で特に実践的内容を扱う回について、その内容に関する一線級の実務家をゲストスピーカーとして招聘し、講義の流れに沿った「実践的取り組み事例や立場」に関する情報提供を行ってもらうと共に、担当教員との総合的討論を行う。
対象科目は、建築学科の学部2~3年生の講義科目、または博士前期課程1年生の特論科目(非履修生や2年生にも声をかける)などで、常勤教員が担当する科目とする。
ACTIVITY
構造デザインって何?
2021/12/18
藤尾 敦 氏(株式会社 藤尾建築構造事務所主宰)
建築学科の3年生科目「構造デザインII」の第13回(12月13日(月))に藤尾敦氏をお招きし,構造デザインの実際と構造家の役割について講義いただいた。
講義では,美しい建物とは何かという議論から始まり,建築設計における構造家の役割がいかに大きいかをいくつかの事例を示しながら,具体的に説明された。たとえば,極限まで細い柱の魅力とそれを可能にする構造計画,木造で美しい曲面を作るための工夫などである。生物(植物,昆虫,人間など)に見られる合理的な形態,足首の細さに魅せられる人間の心理についても語られた。巨大な飛び出す絵本を実現した苦労も語られた。この開発実験には本学の建築材料実験室が使われた。通常では考えられない構造物,たとえばユラユラ揺れるガラスだけで支える屋根とか,柱なしで自立する薄い階段なども紹介され,学生たちは聞き入っていた。
最後に,学生たちと就職活動への考え方や将来の夢などについて語り合う時間もあった。有意義な時間であった。(建築学科 市之瀬敏勝)
「住宅管理」の業務内容、そして仕事としての醍醐味
2022/01/04
稲場巧氏((株)東急コミュニティー名古屋支店 マネージャー)
建築学科2年生の科目「建築計画II」の一環として、11月上旬に同氏を招き、マンション管理業務の概要、仕事の喜びについて講義をしていただいた。
稲場氏は、住宅産業での施工管理、マンションデベロッパーで開発業務を経て、現在のマンション管理の営業マネージャー(具体のマンション管理組合を担当し管理?提案)を行っている。その間、二級建築士、管理業務主任者、宅地建物取引士、一級建築士の資格を取得し、幅広い専門知識をもち現在活躍中である。
講義内容は3部から構成された。第一は、管理組合の運営と管理会社についてであり、講義科目としての内容が具体的に解説された。第二は、マンション管理の仕事についてであり、実際に取り組んできた経験を踏まえ、顧客(マンション管理組合)との関係、仕事のやりがいなどが語られた。第三は、建築学科学生とマンション管理業との関係であり、来年から就職活動を行う学生の目線に立った求められる専門性についてのメッセージが送られた。
最後に締めくくりとして、稲場氏自身一度で合格した一級建築士について、現在の仕事においてこの資格が顧客の信頼感に大きく貢献していること、および受験当時の自身の気持ちや取り組みの姿勢が熱く語られた。
稲場氏とは、あるタワーマンションの管理組合へのヒアリング調査で出会い、その仕事への姿勢および技術習得への向上心に感じ入り、この度の講義の依頼となった。講義において、この時私が感じた彼のエネルギーが学生にも伝わったと感じた。(建築学科 高井宏之)
建築企画と違反建築物対策の実践
2022/01/05
増渕昌利氏(神戸市役所OB、増渕昌利建築安全研究所)
建築学科3年生の科目「建築法規行政」の一環として、12/7(火)3限に同氏を招き講義をしていただいた。増渕氏は1970年に神戸市に就職し永年建築行政に携わってきたが、在職中に「行政建築家の構想(1989)」などの出版に関わり、定年退職後に「違反建築ゼロ-住まいの安全?神戸の挑戦(2007)」を出版し、2012年に博士(工学)も取得した。その後も、複数の大学の非常勤講師や国土交通大学校の研修講師、建築学会建築企画小委員会の主査を務めている。
講義内容は4部から構成された。第一は、これまで携わった仕事の概要である。小学校?市営住宅?保育園?地下鉄駅?プロ野球スタジアム?神戸市庁舎などの企画/設計/施工監理を経て、最後は違反建築対策室長を勤めたことを述べ、建築職として幅の広さが示された。
第二は、畑村洋太郎氏が創始者である「失敗学」である。科学技術を発展させた三大事故とJR福知山線脱線事故(2005)の紹介ののち、建築の目的として「建築の三大要素(強?用?美)」と「時代の要請に応える」を示した。
第三は、建築基準法の目的と失敗についてである。必要最小限度の規制である建築基準法でさえ違反している建築が以前は少なくなく、阪神?淡路大震災で被災した住宅にも明らかな違反建築や施工不良が混じっていたことを認めた国は再構築を宣言した。増渕氏はこのことをバネとした違反建築ゼロへの挑戦として、建築主に対する粘り強い働きかけを行い、大震災時30%程度であった新築工事の完了検査率を2013年には概ね100%としたことを紹介した。
第四は、建築基準法の特性である。この法規には作る時の技術法という前提があること、最低基準としての限界があること、しかし行政マンの運用次第で可能性が拡がること、設計者がこの法規を超えて注意すべき階段や吹抜の火災時の問題などを説明した。
そして最後に、業務終業後も同僚や友人たちと勉強会をして成果が挙がったこと、職場では「仕事を趣味に変えている」とも言われたなどを紹介し講義を締めくくった。(建築学科 高井宏之)