大学概要【2024年度実施分】地域課題に向き合う
経済学部
"地方創生が叫ばれて久しいなか、今なお社会構造の諸変化は地域経済に大きな影響を与えています。少子高齢化に加え、多くの地域は商店街?繁華街の衰退といった「減少?衰退」に悩まされており、地域の中小企業や関連自治体は、その対応に急いでいます。では、「拡大」を図るにはどのような視点が必要となるのでしょうか。
本事業では、特定「地域」に焦点をあて、どのように地域の〇〇「拡大」をすすめていくのか、様々な視点から調査、分析をおこないます。"
ACTIVITY
静岡県焼津市「つなモビ」の魅力を知る①
2024/12/21
2024年10月末、経済学部2年生で静岡県焼津市を訪問しました。同市では市公式LINEから小型電動車を呼び出し、市内に設置された停留所にダイレクトに移動可能な公共交通システムの実証実験を展開しています(~2024年12月15日で第3回実証実験終了)。この実証実験は、経済産業省「地域新MaaS創出推進事業」の一環で実施されていますが、学生たちは「何が新しい取り組みなのか」「そこから何が生み出されるのか」問題意識を抱き、実施主体であるうさぎ企画様や、焼津市役所、観光協会にインタビュー調査を行ってきました。
焼津市はマグロなどの水産物で知られる漁業の街です。訪問前の情報収集では、この取り組みは新たな観光地向けサービスだと学生たちは想定したのですが、実は焼津市が抱える課題は観光地としてのネームバリューを高めるといった一面的なものではなく、焼津市の魅力そのものを伝えること、そして観光客と地元の方との交流の場を創出したいというものでした。そこから生み出された新たな公共交通システム「つなモビ」。ここで導入されるモビリティはグリーンスローモビリティと称されるEVです。低速だからこそ街の雰囲気を直に感じられ、学生たちに手を振ってくれる地元の方の姿も。停留所は地元の美味しいカフェや商店、直売所などに設けられているので、気になったスポットで乗り降りして焼津の魅力を存分に楽しむことができます。
このグリーンスローモビリティを導入する新たな公共交通システムの取り組みは他地域でも展開されていますが、市内に40ヵ所以上の停留所を設けて、観光やビジネスで同市を訪れる方と地元の方との交流を意図した取り組みは国内初の試みです。ここでの出会いが観光地、ビジネス拠点としての焼津市の魅力をより強めるものになると学生たちは感じ取ったそうです。「移動システム」=人の移動の利便性に供するものという位置づけだけではなく、地域が抱える課題解決の一助になり得ることを学んだ焼津体験となりました。
静岡県焼津市「つなモビ」の魅力を知る②
2024/12/23
「つなモビ」停留所になっているカフェの前で
2024年11月に入り、10月に焼津調査を行った学生を中心に2回目の調査を実施しました。今回の調査は「つなモビ」の停留所になっている店舗様へのインタビュー調査などを行い、「つなモビ」導入が地域にどのような影響を及ぼしているのかを把握することを目的としています。
停留所になっている店舗には、焼津市の特産品ともいえるカツオを扱う店舗や水産物を加工してお出汁やレトルト食品などを売り出す老舗のお店など目移りしてしまうお店がいっぱいです(学生もお土産チョイスに悩んでいました)。老舗のお店では、その営業年数の長さにも関わらずSNSやインターネットを駆使した経営活動を展開しており、中小企業経営の奥の深さにも触れたそうです。また、これらのお店を学生はじめ、外から焼津を訪れた方が知るきっかけになっているのも「つなモビ」です。移動体が新たな出会いを紡ぎ出し、それが地域経済の潮流にも結び付く流れを強く体験した調査にもなりました。
学生たちが今回体験した「つなモビ」は社会実装に向けた実証実験の段階にあります。社会実装とは、実験等によって得られた知識、サービスを実社会で活用することを示しています。実際に「つなモビ」が焼津市で日常的に活用されるのかはこれから検証等が加えられます。今回の焼津訪問では、学生たちはこの段階を目の当たりにし、実際に社会で動くサービスがどのように導入されるのか、そのステップも学ぶことができました。地域課題に向けた取り組みとして、今回の調査は「移動」に注目していますが、高齢者向けサービス、観光地向けサービスなど様々な可能性を秘める「移動」のあり方を、より調査したい意向を強めるきっかけにもなりました。
岩手県陸前高田市のモビリティ取り組み「モビタ」
2024/12/26
2024年11月、経済学部2年生で岩手県陸前高田市を訪問しました。岩手県南東部に位置する陸前高田市は、人口約1.9万人のうち高齢者が約7.8千人を占める市です。東日本大震災で津波によって甚大な被害を受けたエリアで、震災以降、高台移転や産業の再生などの復興事業が進められています。
加えて興味深い取り組みとして、地域密着型のエネルギー事業会社が中心となった地域モビリティの導入が挙げられます。一般的な地域モビリティは、過疎地向け、観光地向けといったようにその目的が絞られますが、同地のそれは平日と休日で分けて展開されています。平日では市内の住民方向けにスローショッピング(※)を目的とした運営が、休日では観光客向けに観光ルートを結ぶ運行を行い、地域経済への貢献を目指しているそうです。高齢者が多い同市において、年輩の方の交流の場を増やし、そして移動の足を提供するという取り組みと、観光に向けた取り組みという2つの課題解決を意図した取り組みといえます。
※スローショッピングとは、近年、様々な地域で導入される取り組みです。陸前高田市の取り組みでは、交通手段をもたない高齢者が安心してお買い物をするためにボランティアの方が積極的に活動を展開しています。交通手段としてのモビタを活用し、ボランティアの方と高齢者の方が会話をしながらお店での品物選びを楽しんでもらうことを意図しているそうです。この取り組みにより、高齢者の外出を促進するなど地域課題のひとつのアプローチとしても注目されます。