特設サイト第69回 漢方処方解説(33)柴胡桂枝湯
新型コロナウイルス感染症により、世界中が混乱している中、いろいろな行事や社会的な活動が制限されており、なんとも気づまりな毎日です。一般市民も含め、関係各所の努力により、一刻も早く事態が収拾されることを祈りつつ、重症化させないためにはどうするべきか、われわれは考えなければなりません。
今回取り上げる処方は、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)です。
この処方は、現代医療において、消化器症状を伴うかぜに用いるとされ、ドラッグストアなどでは「胃腸かぜ」にと勧められることが多い処方です。本方は、柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、黄芩(おうごん)、人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)の9種の生薬からなり、処方名からもわかるように、小柴胡湯(しょうさいことう)と桂枝湯(けいしとう)の二つの処方を併せた合方(ごうほう)となっています。そのため、古典においては、急性発熱性疾患で、小柴胡湯と桂枝湯のそれぞれの適用症状が混在した状態に用いるとされます。
桂枝湯の適応となる症状と言えば、上気道炎症状で、頭痛や発熱、悪寒を伴い、発汗傾向であることにおいて葛根湯と異なります。一方で、小柴胡湯の症状とは口が苦い感じがするとか、胸や脇が張って苦しいなどの胸脇苦満感、また熱感と寒気を交互に感じる往来寒熱などの特徴的な症状や嘔気?食欲低下などの胃炎様症状も含みますから、両者の症状が混在する状態を表現したところ、「胃腸かぜ」となったのかもしれません。ときに、ノロウイルスによる食中毒を「胃腸かぜ」と称することもあるようですが、やはり感冒とは少し違いますよね。
本方の出典にあたるこの連載でもおなじみの「傷寒論(しょうかんろん)」には、時間的推移から疾病を考え進行状況を六段階に分類する「六病位」という概念があります。そこでは桂枝湯は病の始まりを意味する「太陽病」期に用いる「辛温解表剤」であり、小柴胡湯は「少陽病」期に用いる「和解剤」であるので、その合方である柴胡桂枝湯は両方の時期に広く用いることができる処方として重宝するのではないでしょうか。風邪を引いたなと思った後から、少しこじらせてしまったかと思うような時期まで用いることができ、かつ、いわゆる感冒の症状に加えて消化器症状にも適応しますから。さらに、それらの症状がはっきりとせず、「なんとなく風邪のような...」という場合にも使えるとされています。
三寒四温の季節柄、なんとなく体調を崩される方が多くなる春ですが、そうした折にも有益な処方ではないかと思います。
(2020年3月31日)