特設サイト第93回 漢方処方解説(48)酸棗仁湯
サッカーのW杯カタール大会が始まり、睡眠不足の方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介する漢方処方は、不眠症に用いられる酸棗仁湯(さんそうにんとう)です。疲れているのに眠れない、そんな不眠によいとされますが、西洋医薬品の睡眠導入剤のように即効性があるものではありません。
構成生薬は、酸棗仁(さんそうにん)、知母(ちも)、川芎(せんきゅう)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の5種類で、主薬となる酸棗仁はクロウメモドキ科のサネブトナツメの種子を用いる生薬です。ナツメも大棗(たいそう)と呼び、生薬として用いられます。その場合は果実を用いますが、「サネブト」というのは「種子=核(さね)の大きな」という意味であるとされています。この種子が精神安定作用をもち、動悸や不安、不眠を治すと言われています。
酸棗仁湯
漢方処方の中には、不眠に用いられるものがいくつかありますが、この処方は心身ともに疲れて、体力低下した者の就眠障害に用いるとされます。慢性疾患で消耗した者や高齢者などで、とても疲れているのに眠れない、夜になると目がさえてしまうといった場合がそれにあたるとされます。また、常に疲れて弱っていて、些細なことが気になって眠れないときにも有効だったとする報告もあります。
一方で、イライラしたり、興奮したりして眠れないという場合には、また別の処方が使われています。例えば、イライラが強く、胃腸障害などがある場合には加味帰脾湯が有効な場合があり、焦燥感や怒りっぽくなっている場合には抑肝散が有効です。また、感冒の解熱後、咳や痰が多くて眠れないときには竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう)が有用とされています。
眠れないということは、それだけで気分が滅入ってしまいますし、悪循環に陥ってしまうこともあると思います。睡眠導入剤や睡眠薬など西洋医薬品もいくつかありますが、漢方エキス製剤も上手に使っていただければと思います。
(2022年12月2日)