特設サイト第101回 高知県立牧野植物園にて
高知県立牧野植物園(写真1)
久しぶりに盛夏の高知に帰省しましたので、高知県立牧野植物園に行って参りました(写真1)。牧野富太郎博士をテーマにした朝ドラが好評とか、牧野植物園も多くの観光客を迎え、賑わっていました。この植物園は、牧野富太郎博士の業績を顕彰するために、1958年に五台山に開園され、1999年に牧野富太郎記念館を開館するとともにリニューアルした施設です。その後もいろいろな施設を充実させ、研究施設としても発展してきています。
牧野博士については、「日本植物分類学の父」として、よく知られていると思いますが、この園には漢方医学の復興?発展に多大なる功績を遺した大塚敬節博士の句碑などもあります(写真2)。 大塚博士は、明治政府により本邦の医政が西洋医学を中心としたものとなり、それまでの医学であった漢方医学が廃れていく中、昭和期の漢方復権に尽力した方として知られています。園内には、大塚博士の業績をたたえた碑も置かれていますので、それをご紹介したいと思います(写真3)。 その碑には、「漢方医学は紀元前中国に起こり、東アジアで発達を遂げ、日本で独自の展開をみた医学である。その有効性は西洋医学の不備を補って余りあるもので、現代医療の中で国民の福祉に大きく貢献している。ところが明治維新以来、昭和の初期にかけて漢方医学は西洋科学崇拝の風潮に押されてほとんど顧みられなくなり、非公認の医学となってしまった。この時勢に敢然と立ち上がり、漢方の有用性を正しく認識し、その復興と研鑽に人生をささげたのが高知出身の偉人?大塚敬節先生である。先生は強い信念と豊かな才能をもってあらゆる困難を克服し、漢方医学の素晴らしさを世に知らしめた。今日漢方が公認の医学として広く行われているのは先生の漢方ひとすじの努力のたまものにほかならない。大塚先生は東京で牧野富太郎博士から本草学を学び、診療にあたっては常に養生第一を説かれて博士の長寿に寄与された。ここに生誕百年にあたり記念碑を建立し、もって永久にその遺徳を顕彰するものである(矢数道明 平成12年10月8日)」とあります。
大塚敬節博士の句碑(写真2)
大塚博士の業績をたたえた碑(写真3)
植物の中から、病気の治療や予防、健康の増進まで幅広く利用されているものが薬用植物であり、生薬です。その生薬をいくつか組み合わせて、漢方医学の薬物療法に用いているのが漢方薬ですから、この牧野植物園にいると、なかなかに感慨深いものがあります。 大塚博士の句碑には、「術ありて 後に学あり 術なくて 咲きたる学の 花のはかなさ」とあります。多くの漢方家が引用する句ですが、「術」と「学」をバランスよく発展させること、すなわち「知行合一」を目指すべきだという句です。薬学部にいるわれわれも、臨床と基礎、さらには教育と研究をバランスよく行っていきたいと気持ちを新たにしました。
これらの句碑は、園内の薬用植物園区にありますので(写真4、5)、いろいろな薬用植物を実際に見ていただくためにも、是非訪れていただきたいと思います。
園内の薬用植物園区(写真4)
園内の薬用植物園区(写真5)
(2023年9月1日)