特設サイト第117回 漢方処方解説(66)滋陰降火湯

今回ご紹介する処方は滋陰降火湯(じいんこうかとう)です。
この処方は主に気管支炎などに応用されるもので、臨床では「乾いた咳」に用いることが多いとされます。その咳は、温めると悪化する傾向があるとか、痰に血が混じることがあるとか、高齢者の空咳や口の渇きに用いられることがよくあるとか、臨床的にも多くのポイントがある処方です。ときに、シェーグレン症候群などの口腔乾燥にも応用されることがあります。

乾性咳嗽への応用という点では麦門冬湯とよく似たところがありますが、麦門冬湯が「痰の切れにくい咳」や「こみ上げてくる強い咳をして顔が赤くなるもの」を対象とするのに対し、本処方は「のどのうるおいがなく、痰がでなくて咳きこむもの」を対象とするなど、より長引いた慢性例を対象とすることが多いとされています。
古典においては「陰虚火動(いんきょかどう)」に用いるとされます。この「陰虚火動」というのは、「虚労(きょろう)」という気血の消耗した状態では、身体を温める「陽の気」よりも冷ます「陰の気」が不足しやすく、「水」が不足して結果的に「火」の制御が難しくなって「動き」、いろいろな症状を引き起こすと考えられています。そういった「陰虚火動」において、発熱、咳嗽、喀痰、喘鳴や息苦しさ、寝汗、口の渇きなどあるものに滋陰降火湯を用いるとされます。

構成生薬は、当帰、芍薬、地黄、麦門冬、天門冬、陳皮、蒼朮、知母、黄柏、甘草の10種であり、当帰や芍薬、地黄は「血」の産生を高めて身体に潤いを与え、麦門冬と知母は配に潤いを与える作用をもち、さらに天門冬は麦門冬とともに腎に潤いを与えます(滋陰作用)。知母は肺の熱を冷まして咳を抑える作用をもちますし、黄柏は陰液不足による腎の虚熱を冷まして潤いの減少を抑えます。その他、陳皮や蒼朮、甘草は脾胃の働きを高め、気血の生産を促す作用をもちます。

当帰

当帰

芍薬

芍薬

地黄

地黄

麦門冬

麦門冬

天門冬

天門冬

陳皮

陳皮

蒼朮

蒼朮

知母

知母

黄柏

黄柏

甘草

甘草

「肺」と「腎」は、私たちの身体の「水」の代謝や運行、貯蔵に関わっており、腎からもち上げた水を肺から全身に散布されて、また腎に戻ります。そのため、腎に何か不具合があれば、水が肺に上がらず、肺は乾燥して発熱し、さまざまな呼吸器症状を呈すると考えられ、そのような場合にこの滋陰降火湯が有用だと言われています。処方の名称も「陰」を補い、「火」を降ろすとあり、その作用の内容を表しているといえます。原典の「万病回春」では生姜や大棗を適量配合するとあり、脾胃の働きをよりサポートするようにと指示されています。

これから乾燥した季節にもなりますし、風邪を引いて、長く咳に悩まされることもあるかと思います。咳の種類によっては、この処方が有用かもしれませんので、もしものときにはお試しください。

(2024年12月26日)

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