特設サイト第119回 漢方処方解説(68)芎帰膠艾湯
今回紹介する処方は、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)です。
この処方は「金匱要略」を出典とし、基本的には止血剤として活用されてきたものです。中医学の書籍を見ますと、血液が経脈を離れて、あちらこちらに動いて行ってしまうため、鼻血や吐血?喀血、血尿、血便、不正性器出血など、いろいろな部位における出血が生じるとされます。ただし、その原因にはさまざまなものがあり、寒熱?虚実?上下?内外と異なるため、その症状も軽重?緩急の違いがあることから、止血剤もいくつかの処方があると記されています。この芎帰膠艾湯は、主に不正性器出血や月経過多、早?流産後の子宮出血の持続、妊娠中の腹痛や性器出血、さらには痔出血や下血などに処方されています。
構成生薬は、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)、艾葉(がいよう)、甘草(かんぞう)、阿膠(あきょう)の7種で、伝統的には阿膠以外を煎じて滓を除き、阿膠を溶かして服用するとあります。この阿膠は、あまりなじみのない生薬だと思いますが、動物生薬の一つでロバの毛を取り去った皮や骨、腱または靭帯を水で加熱抽出し、脂肪を取り除いて濃縮乾燥したものです。主成分としてはゼラチンやコラーゲンですので、メーカーによっては漢方エキス製剤としての芎帰膠艾湯の製造に阿膠の代わりにゼラチンを用いている会社もあります。効能?効果としては止血、強壮、止瀉、月経痛などの鎮痛とされており、膀胱炎などによる血尿や排尿痛などに用いられる猪苓湯(ちょれいとう)にも配合される生薬です。

艾葉(がいよう)

阿膠(あきょう)
この処方は、出血による血の損耗もあるため、血を補う必要があり、当帰や川芎、地黄(熟地黄)などの補血剤が配合されており、全体の調和をとる目的で甘草が配合されています。
主に下半身の出血に対する止血剤として用いられてきた処方ですので、女性の場合は月経や妊娠に関連した出血にという理解でいいと思います。数日以上の服用が必要であることが多いとされていますが、地黄の配合がありますので、普段から胃腸が弱い方ですと、胃部不快感や食欲不振などの胃腸障害を起こすことがあります。また、基本的に冷え症の方に適するとされていますから、のぼせや口渇など熱感のあるときには使えません。また、3グラムと比較的多量の甘草が配合される処方ですので、アルドステロン症の患者やミオパチー、低カリウム血症の患者には禁忌とされており、副作用である偽アルドステロン症の出現には気をつける必要があります。
(2025年2月28日)