ベンチャー起業家として、
世の中に必要なイノベーションを起こす
私はこれまで3社を起業してきました。1社目のZERO SPORTSを立ち上げたのは今から30年近く前になります。トヨタやダイハツ、安川電機、パナソニックなど、錚々たる企業と異業種連携を図り、日本でいち早く電気自動車の開発に取り組みました。複数の大手自動車メーカーからの電気自動車の受託開発をしておりましたから、日本の電気自動車の中枢が我が社にあったといっても過言ではありませんでした。ZERO SPORTSはアメリカのテスラ社に匹敵する開発力をもつベンチャーでしたが、残念ながら当時の日本にはベンチャーを支援する土壌はありませんでした。破壊的創造からなる技術革新が進んだ未来が語られることはなく、次の世代を背負って立つ会社であっても切り捨てられてしまいました。
日本での市場形成を断念し、私はZERO SPORTSを事業譲渡することを決めました。2011年当時、排気ガスと騒音が問題視されていたフィリピンでは、アジア開発銀行が資金を拠出し10万台の電気自動車を導入する政府プロジェクトがスタートしました。日本で電気自動車市場を見出せなかった錚々たる大手サプライヤー企業が結集して、フィリピン市場を勝ち取ろうと電気自動車の日本コンソーシアムを立ち上げ私はリーダーを引き受けたのです。
その後、財務実績のないコンソーシアムでは国際競争入札に参加できないことになり、フィリピン国内初となる自動車メーカーBEET Philippine Inc.を設立して、フィリピンの自動車メーカーとして型式認定を取得し、開発を行いながら入札に備えました。
ところが、フィリピンに渡って目の当たりにしたのは、新車が買いたくても買えない人々でした。フィリピンでは真面目に働いて支払い能力があったとしても、貧困層は与信審査を通ることができず、車のローンが組めないのです。その結果、整備不良や経年劣化した車が街に溢れ、排気ガスと騒音が大きな問題になっていたのです。デジタルテクノロジーによって、この社会課題を解決しなくてはいけない。その決意で立ち上げたのが、3社目のGMS(Global Mobility Service株式会社)です。
貧困が貧困を生む、構造的な社会課題に挑む
GMSは6年前に資本金100万円ではじめた会社ですが、今では資本金は28億円ほどになりました。フィリピン、カンボジア、インドネシア、韓国、日本などに拠点をもち、社員は300名ほど在籍しています。会社設立の際は私が起業家として20年来やってきた実績を見ていてくれた方々に出資をいただき、今日まで支えていただきました。おかげで、様々なアワードを受賞させていただき社会課題解決に取り組むソーシャルイノベーションスタートアップとして評価していただけるようになりました。
当社は多くの株主から出資をしていただいております。未上場ベンチャーでありながら、東京証券取引所市場第一部、第二部上場の企業15社以上に資本参加していただいている会社です。
事業会社筆頭株主であるデンソー様をはじめ、川崎重工様、ソフトバンク様といった日本を代表する東証一部上場企業にご期待をいただいております。
GMSの経営理念は、「モビリティサービスの提供を通じ、多くの人を幸せにする」こと。ビジョンは真面目に働く人が正しく評価される仕組みをつくること。私自身、1社目で真面目に働いてもなかなか評価されないという悔しい思いをしましたので、真面目に働く人々に光を当てる取り組みを生涯かけてやろうと思っています。この理念とヴィジョンはすごく重要で、社員はもちろん、業務提携先や資本提携先との共創も、この理念に賛同していただいて生まれたのです。
フィリピンでは貧困層がローンを組めないと言いましたが、フィリピンの車ローン審査の非通過率は90%です。フィリピンでは銀行口座開設にお金がかかるため、銀行口座保有率が77%と低く、ほとんどの貧困層が口座をもっていません。銀行はお金の動きが見えないため、ローンの返済能力があるかどうか評価できないのです。
一方で公共交通機関が発達していないフィリピンでは、小型タクシーとしてトライシクル(三輪自動車)が数多く走っています。人口は日本と同じ1億人ですが、日本のタクシー車両40万台に対して、フィリピンのトライシクルは350万台と、約10倍です。ラストマイルの交通手段として、トライシクルは増える一方なのですが、多くのドライバーは車を購入できず、オーナーから借りています。毎日レンタル代を支払っているため、インカムが少なく、苦しい生活を強いられているのです。ドライバーが車を所有できる状態をつくっていかないといけないのですが、実際は返済能力があっても、与信が与えられず、貧困層が貧困を抜け出せない構造的な社会課題が存在しています。
フィリピンだけではありません。アフリカ、南米、東南アジアなどさまざまな地域で、同じように車を買いたくてもローンを活用できない人口が17億人います。東南アジアに行くとUberなどライドシェアのドライバーをたくさん見かけますが、彼らもほとんど車を所有していません。もし17億人が100万円の車を購入したとすれば、1千700兆円。とんでもなく大きなマーケットがあります。
GMSが独自開発したIoTデバイスが、
ドライバーの信用を創造する
私たちはモビリティを遠隔でエンジン軌道制御できるIoTデバイスを独自開発しました。これを車に取り付けると、ローン返済の入金がない場合は、車のエンジンがかからなくなります。そして、支払いを済ませた3秒後にはエンジンを再起動できます。このデバイスを車に取り付けることを条件に、ドライバーは金融機関からローンを借ります。
これによって、金融機関は安心してローンを通すことができ、ローン契約者は生活が豊かになり、車両販売店は販売台数が増え、国や地域は大気汚染の改善や経済的格差の是正につながります。そしてGMSは、私たちが目指す持続可能な豊かな社会を実現しながら収益を上げるという、“五方良し”の価値を創造しています。
社会課題解決を目指していても、企業側が利益を上げないと活動は続きません。経済合理性を満たさなかった市場に対して、テクノロジーやオペレーション、ノウハウ、サービスを使って経済合理性を生み出し、持続可能な状態で提供し続けることが社会課題解決には重要です。
このシステムは頑張りを可視化するものでもあります。デバイスによって車の動きをウォッチできるため、ドライバーの日々の頑張りをデータとして数値化し、ドライバーの信用を創造することができます。車のローンだけでなく、子供を進学させるための教育ローン、家を持ちたい人には住宅ローン、急な入り用に対応したい人には医療ローンを通すこともできるでしょう。これは一歩一歩取り組んでいかなくてはいけませんが、テクノロジーの力で、本来届かないといけない人のところにお金を届ける。これを民間でやらせてもらえるのはやりがいがあります。
Fin Techを使って、
「誰一人取り残さない」社会をつくる
私たちが行なっているのは「金融包摂型のFin Techサービス」です。Fin Techというと、金融に早く、安く、便利にアクセスできるサービスを思い描くかもしれませんが、金融にアクセスできない人たちを取り残したままでいいのでしょうか。SDGs(国連サミットで採択された、持続可能な開発のための2030年までの国際目標)で「誰一人取り残さない」と掲げているんだったら、貧困問題に事業として取り組む会社が出てこないといけないのです。
私たちの取り組みは、SDGsにかなりマッチしています。SDGsでは17の項目を掲げていますが、その1番目は「貧困をなくそう」です。これをクリアできれば、「質の高い教育をみんなに」「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等をなくそう」などと掲げる、他の項目もクリアされていきます。
Fin Techで貧困をなくすというのは、まさに私たちの強いメッセージです。SDGsができている企業は、上場企業を見渡してもまだほとんどありません。SDGsは未来思考でないといけないですし、SDGsとして掲げた事業をその会社の柱としていかなければなりません。寄付やボランティアをするCSRとは違います。社会課題に向き合って、解決する中に経済合理性を創出するというのが重要なのです。それでこそ、真にサステイナブルな仕組みとなって、社会に貢献できると信じています。
共創に必要なのは、
リーダーになれるイノベーター人材
フォーラムのテーマはオープンイノベーション(共創)ですが、イノベーションをおこすには、社会の真のニーズと、IoTやAI、Fin Techといった新技術が出合うだけではだめで、周りを巻き込んでいくことが重要です。外を巻き込めずに消滅してしまうイノベーションはたくさんあります。つまり、イノベーターは国や地域、会社や業界のリーダーにならないといけない。同じ志をもって集まってきた人たちの不安を解きながら、何もないところから、一つの方向に向かって将来を示すイノベーター人材が求められています。
そのときに失敗を恐れてはいけません。「大きな変化をもたらすためには、大きな失敗が必要、失敗しなければ大きく動くことはできない。激しく動かなければならない。そして失敗する。だが、それでいい」という、アマゾンのジェフ?ベゾスCEOの言葉があります。失敗とはその地点で見れば失敗ですが、長い目で見れば成功の種なのです。どんな大きな失敗も命さえ無くさなければ、次には成功が待っています。どんどんチャレンジをして経験から学び、前向きに頑張っていってください。私も負けずに頑張りたいと思います。